2016/3/10 名古屋ウィメンズマラソンまであと3日
NAGOYAを彩る女性ランナーたち
A小原怜
(天満屋)
5大会連続代表を目指す天満屋勢の少し変わった選手
「私は言い訳大臣なので」

「私は言い訳大臣なので」
 という言葉に、「え?」という反応が会見場に出ていた。スポーツ選手、それも日本のトップ選手の会見では聞き慣れない言葉だったからだ。
 丸亀ハーフマラソンで小原怜は5位(1時間10分42秒)。15kmから脚が動かなくなった理由を問われたときだった。小原は練習不足ということを言いたかったが、それが言い訳に聞こえてしまうことにひと言、言い添えたかったのだ。
「もっと練習していかなければならなかったし、補強とか合宿中、手を抜いてしまっていたところがあった」
 このコメントは天満屋チームの特徴を踏まえると、より深く理解できる。

 00シドニー五輪の山口衛里、04アテネ五輪の坂本直子、08北京五輪の中村友梨香、12ロンドン五輪の重友梨佐と、女子マラソンで4大会連続代表を出し続けている。
 駅伝の長距離2区間(3区と5区)を、五輪代表と、数年後に代表となる若手有望選手の2人が走るケースも多い。
「チームを背負う選手は若い頃から、駅伝のエース区間を走らせることで柱として育てていきたい、という考えです。(長い期間)1人の選手に頼ってしまうと、チームが傾くことにつながりかねません」(武冨豊総監督)

 その天満屋のマラソン選手育成メソッドの1つに、選手が自発的にプラスαの練習を行うことがある。集合時間前に10分でも20分でも体を動かしたり、時間を見つけてウォーキングをしたり、自分に適した補強を見つけて取り組んだり、といった部分だ。
 過去の代表4人は走りの特徴も、メイン練習の組み方も異なるが、自発的にプラスαの練習を行う部分はどの選手もしっかりと行ってきた。
 ところが、小原はそこができなかった。
「マラソンは1日15分、20分の努力の積み重ねが違いになって現れますが、小原はそこができない。目の前に重友という見本がいるのに、同じことができないんです」
 陸連合宿などで一緒になる他チームの指導者からは、小原はしっかりとやっているように見えるという。天満屋チーム関係者にしかわからない、細かい取り組みなのだと思われる。

 丸亀での「言い訳大臣」という言葉も、スタッフが日頃、小原に対して使っているから会見で出てきたのだろう。そのあとに続いた「補強とか、手を抜いてしまった」という言葉も、普通の選手は口にしない。注意されている部分を“今回はしっかりやるぞ”という小原なりの意思表示だったのではないか。

 天満屋はリオ五輪代表に、大阪国際女子マラソンでまず重友が挑んだ。2時間30分40秒の5位、日本人4位で選考の俎上に上がることはできなかった。
 もしも重友が代表入りすれば、天満屋としては初の2大会連続代表選手となり、天満屋としても新たな一歩を踏み出したことになる。それは大きな意味があった。
 小原が代表入りすれば、駅伝を活用して次のエースを育てる“天満屋パターン”を継続することになるが、天満屋としては“新たなタイプ”の選手でもある。自発的なプラスαの練習がなかなかできなかった初めての選手、ということもあるが、中距離出身の初代表という点だ。
 高校1年時の国体少年B800 mは2位(中学3年生の鈴木亜由子=現JP日本郵政グループ=が優勝)。08北京五輪代表だった中村も09年世界陸上1万mで7位に入賞するスピードを持っていたが、小原は1500mで日本トップクラスといえる4分20秒を切るスピードがあった。

 武冨総監督は、リラックスしたときの動きは長い距離にも適性がある、と以前から期待していた。浦川哲夫監督は「集中力と、追い込まれたときの強さを見せてくれた」と、昨年の北京世界陸上1万m代表を取ったときの小原を評価する。
 小原は昨年6月の日本選手権で3位と快走した(32分08秒59の自己新)が、32分00秒00の世界陸上標準記録未突破だったため代表入りは保留された。7月のホクレンDistance Challenge深川大会で標準突破に挑んだが、32分52秒04と失敗。普通の選手ならそこで気持ちが切れるのだが、小原は7日後の網走大会で31分48秒31をマークし追加代表に選出された。

「言い訳大臣」という言葉を公の場で発した今回は、その集中力がマラソンでも発揮されるのではないか。


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